クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 不思議な感情で胸がいっぱいになった。

 大切にしてもらえるのが嬉しくもあり、でも同時にどうしようもない切なさで肋骨の奥がきゅうっと痛む。

 たとえ政略結婚であろうと、妻として、家族として大切にすると言ってくれているのに。それも一生涯を誓ってくれているというのに。

 なのに私はどうして、こんなに切ないの……。

 ただ下を向き、頭を下げ「こちらこそ」と声を絞り出す。

「こちらこそ、不束者ですが、どうぞよろしくお願いいたします」

 私の答えに、彼がそっと気配を緩めるのがわかった。




 お風呂のあと、どうしたらいいのかわからず緊張しながらベッドに座っていた。柊梧さんが疲れただろうから寝ていろと言ってくれて、お言葉に甘えて寝室まで来てみたのはいいものの……本当に、先に寝ていてもいいものだろうか。きっとそんなことはないだろう。

 しばらく広いベッドの上でじっとしていると、柊梧さんが髪を拭きながら入ってきて思わず肩を揺らす。柊梧さんは薄く細めた目で私を見たあと、ベッドに近づいてきた。

「海雪」
「は、はいっ」

 座ったまま彼を見上げた私の頭を、ぽん、と柊梧さんが撫でた。おずおずと彼を見上げる私に、彼は淡々と言う。

「いきなり押し倒しなんかしない。今日は寝ろ」
「は……はい」

 しおしおと俯く。どうしよう、きっと顔が……ううんそれどころか耳まで真っ赤だ。恥ずかしくてたまらない。穴があったら入りたいとはまさにこのことだ。

「す、すみません。先に寝ます……っ。おやすみなさい」
「……その前にひとつ、いいか?」

 柊梧さんがベッドに腰かけ、微かに音もなくスプリングが沈んだ。きっと赤い顔だろうまま彼を見上げると、柊梧さんはさらっと驚くことを口にする。

「明日から三か月ほど留守にする」
「……はい」

 呆然としながら頷いた。

「く、訓練ですか?」
「いや。国際協力のひとつだ。米海軍と共同で環太平洋の発展途上国をめぐって医療活動をおこなう。そういった国々では、日本で簡単に受けられる手術もままならない人々も多いから」
「そうなんですね」

 こくこくと頷く。そんな重要なお仕事もしているんだ……!

「あの、それは急に決まったお話でしょうか?」

 ふと聞いてみると、柊梧さんは軽く眉を上げ「いや」と端的に言う。

「ずいぶん前に決まっていた」
「そ……ですか」
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