クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
抱きしめられているみたいだ。
こめかみや額に柔らかなものが触れる。再び泥みたいな深い眠りに落ちつつ、それが彼の――柊梧さんの唇の柔らかさと似ている、と思った。
翌朝は、雲ひとつない晴天だった。
大きな艦のエンジンの振動は、埠頭に立っている私の足元すらも揺らしているよう。潮のにおいと燃料のにおいが入り混じる。
目の前にある濃い鼠色の大きな船は、補給艦というらしい。
さきほど錨が上げられ、今にも出航せんばかりにエンジンが音を立てている。その様子をニュース番組のキャスターさんらしき人がカメラの前で紹介している。
「こちらの補給艦には乗員145名が乗船しています。今回の国際協力では土木工事やインフラ整備の指導はもちろん、医療活動にも主眼をおいているため、数名の医官が乗船しているとのことです。この船の大きさはなんと全長167メートル、総排水量は……」
その声を聞きながら、大きな船だなあと凡庸な感想を抱く。それにしたって、柊梧さんは船酔いしないのかな。
甲板に、白い半袖の制服を着た隊員さんたちが並んでいる。私は、本当に不思議なことに、すぐに柊梧さんを見つけ出した。白い帽子を被った彼がこちらに目を向ける。
不思議だなと思う。彼も私を見つけたみたいだ。その表情に変わりはないものの……。
「パパー!」
近くに立っていた小さな女の子が叫ぶのと、「帽ふれー!」と号令がかかるのは同時だった。
皆が一斉に帽子を取り鍔を持って振り始めた。大きく円を描くようなふりかただ。私は柊梧さんから目が離せない。無事に帰ってきてほしいと思った。
船が澪を引き遠ざかっていく。一瞬のように感じた。
どうしてこんなに寂しいんだろう。
***
そこからの一か月半は、せわしなかった。
仕事の合間に自動車の教習に通い、その仕事では退職のための引継ぎもあり忙しくて目が回るほどだった。
けれどほんの少しの間隙にどうしてか柊梧さんを思い出す。なにをしているかな。元気かな、なんの連絡もないってことは、怪我も病気もしてないよね。
気になって気になって仕方なかったけれど、お仕事の邪魔をしたくなくてメッセージを送るのも躊躇してしまう。
「なあ海雪。天城から君が元気かと連絡が来たんだが、連絡もとっていないの?」
「あ、緊急の場合は基地経由でとは聞いていたんですが……」
こめかみや額に柔らかなものが触れる。再び泥みたいな深い眠りに落ちつつ、それが彼の――柊梧さんの唇の柔らかさと似ている、と思った。
翌朝は、雲ひとつない晴天だった。
大きな艦のエンジンの振動は、埠頭に立っている私の足元すらも揺らしているよう。潮のにおいと燃料のにおいが入り混じる。
目の前にある濃い鼠色の大きな船は、補給艦というらしい。
さきほど錨が上げられ、今にも出航せんばかりにエンジンが音を立てている。その様子をニュース番組のキャスターさんらしき人がカメラの前で紹介している。
「こちらの補給艦には乗員145名が乗船しています。今回の国際協力では土木工事やインフラ整備の指導はもちろん、医療活動にも主眼をおいているため、数名の医官が乗船しているとのことです。この船の大きさはなんと全長167メートル、総排水量は……」
その声を聞きながら、大きな船だなあと凡庸な感想を抱く。それにしたって、柊梧さんは船酔いしないのかな。
甲板に、白い半袖の制服を着た隊員さんたちが並んでいる。私は、本当に不思議なことに、すぐに柊梧さんを見つけ出した。白い帽子を被った彼がこちらに目を向ける。
不思議だなと思う。彼も私を見つけたみたいだ。その表情に変わりはないものの……。
「パパー!」
近くに立っていた小さな女の子が叫ぶのと、「帽ふれー!」と号令がかかるのは同時だった。
皆が一斉に帽子を取り鍔を持って振り始めた。大きく円を描くようなふりかただ。私は柊梧さんから目が離せない。無事に帰ってきてほしいと思った。
船が澪を引き遠ざかっていく。一瞬のように感じた。
どうしてこんなに寂しいんだろう。
***
そこからの一か月半は、せわしなかった。
仕事の合間に自動車の教習に通い、その仕事では退職のための引継ぎもあり忙しくて目が回るほどだった。
けれどほんの少しの間隙にどうしてか柊梧さんを思い出す。なにをしているかな。元気かな、なんの連絡もないってことは、怪我も病気もしてないよね。
気になって気になって仕方なかったけれど、お仕事の邪魔をしたくなくてメッセージを送るのも躊躇してしまう。
「なあ海雪。天城から君が元気かと連絡が来たんだが、連絡もとっていないの?」
「あ、緊急の場合は基地経由でとは聞いていたんですが……」