クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 そう言って雄也さんはハッとした表情で「ごめん」と呟いた。

 きっと、こう続けるつもりだったのだ。「それで父さんも海雪のお母さんと……」って。

「デリカシーなかったね」

 申し訳なさそうな雄也さんに首を振ってみせた。

「だから、つまり、海雪はなにも気にせず幸せになっていいってことだよ」


***


 柊梧さんが国際協力から帰ってくる前に聞いた雄也さんからの言葉を、今度は披露宴会場の新婦控室で思い出していた。

 私は椅子に座り、ヘアメクをしてもらいながら目の前の大きな鏡を見つめる。

 そのなかの私は、式のときとはまた違うマーメイドラインのウエディングドレスを身にまとい、ただじっと前を見据えている。

 幸せになっていい?
 自分の幸せなんて、考えたこともなかった。

 と、突然控室の扉が開く。視線を向けると、お義母さんと愛菜さんだった。私はスタッフさんに声をかけてから立ち上がる。

「本日はご列席ありがとうございます」
「あらあ、いいのよいいのよ」

 鷹揚な雰囲気のお義母さんはご機嫌だ。よくある黒留め袖ではなく、豪奢なパール色のロングドレス姿だった。

「さきほど天城さんのご家族とご挨拶してね。ふふ、華やかでお若いのですねって褒められたわ。やっぱり見る目がある方々は違うわね」
「あたしが選んであげたドレスのおかげでしょ」

 金糸を絢爛豪華に使った豪奢な白の振袖に、大輪の百合の花を髪に挿した愛菜さんが言えば、「この子ったら」とお義母さんは嬉しそうに笑う。

 ふたりの格好になんら文句はない。あなたは主役ではないのよと釘を刺されるように、ふたりの服が真っ白であっても。……仕方のないことだから。

 ただ、愛菜さんの百合の花だけは、なんだか胸が嫌な感じで軋んだ。百合の花は……結婚式で柊梧さんが選んでくれた花だった。寝室にしみこむように香るあの濃厚な香りが、どうしてか今は大好きになっていた。

 ふたりは背後にある大きな白いソファに座ると、私の背後で好き勝手に話し出す。

「それにしても、見て。清純ぶっちゃって、あんなドレス選んで」
「本当ね。まったく、男に好かれるのだけは得意なのよね。本能で分かるのよ、男受けのよいものを嗅ぎ分けるの。なにしろ泥棒猫の娘だもの」
「それにしても、あんたの旦那ってほんとどんな顔なの。お兄ちゃん全然教えてくれないんだよねー。どうせアンタにお似合いのダサイ男なんでしょうけどっ」
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