クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
『緊張してね、面接で話せなくて。いちばん古い記憶は、多分それかな……母さんに落ちたことを散々なじられた。三歳だった僕を、深夜まで怒鳴り続けた。そこからはもう、あの人が怖くて怖くて、仕方なかったよ』
ふ、と自重気味に高尾の顔が歪む。
『でも、海雪が来て……いや、政略結婚に役立ちそうだって無理矢理連れてこられてから、母さんの怒りやヒステリーの対象は、全部海雪に移った。僕は怒鳴られなくなった……正直……』
高尾は言い淀み、それから俺を弱々しく見上げて悲しげに笑う。
『……助かった、と思った。最低だろ』
『高尾』
どう声をかければいいのかわからない。
ただ、沸々と怒りが湧いた。
あの可憐な彼女の、その幼少期が……いや、今までの成育歴は決して恵まれたものでなかったという事実に。それをもたらしたのが、友人の母であったということに。
『だから、罪悪感から僕は海雪にこっそり優しくした。そうしたらさ、あの子は……懐いて……くれて』
はあ、と高尾は息を吐き出す。
『こんなダメな兄だけど……海雪はさ、いい子なんだ。呆れるくらいに、いい子なんだ』
高尾はそう言って両手で顔を覆う。
『ずっと守ってやれなかった……あの子は服さえ自分で選べたことがない。進学先も、職業も……。学校から帰れば、家庭教師につきっきりで行儀作法を叩きこまれる。上手にこなさなければ僕の母親に叱責され、うまくこなしたって嫌味が待ってる。きっと一度だって認められたことがない。なのに海雪は自分の環境を恵まれたものだと思ってる』
『……どういうことだ?』
『母さんに何時間もねちねちと詰られたり、下の妹にことあるごとに嘲笑されたり、せっかくできた友達と引き離されたり……とにかく何をされようが……お前は政略結婚の駒になることだけが存在意義なんだと言い続けられて育てられようが……海雪は感謝してるんだ。学校に行かせてもらった、食べさせてもらったって』
微かに息を吐き出し、高尾の言葉の続きを待つ。高尾はのろのろと何度か瞬きをしたあと口を再び開いた。
『海雪の意思なんかないんだ。政略結婚をして、高尾の家の役に立つのが当然だと、そう思ってる。思わされてる。お前の実母がしでかしたことの贖罪なんだと、罪を背負えと。僕の母親の、どの口が言えるんだ? だから色々考えた。あの子を高尾の家から解放する方法を』
ふ、と自重気味に高尾の顔が歪む。
『でも、海雪が来て……いや、政略結婚に役立ちそうだって無理矢理連れてこられてから、母さんの怒りやヒステリーの対象は、全部海雪に移った。僕は怒鳴られなくなった……正直……』
高尾は言い淀み、それから俺を弱々しく見上げて悲しげに笑う。
『……助かった、と思った。最低だろ』
『高尾』
どう声をかければいいのかわからない。
ただ、沸々と怒りが湧いた。
あの可憐な彼女の、その幼少期が……いや、今までの成育歴は決して恵まれたものでなかったという事実に。それをもたらしたのが、友人の母であったということに。
『だから、罪悪感から僕は海雪にこっそり優しくした。そうしたらさ、あの子は……懐いて……くれて』
はあ、と高尾は息を吐き出す。
『こんなダメな兄だけど……海雪はさ、いい子なんだ。呆れるくらいに、いい子なんだ』
高尾はそう言って両手で顔を覆う。
『ずっと守ってやれなかった……あの子は服さえ自分で選べたことがない。進学先も、職業も……。学校から帰れば、家庭教師につきっきりで行儀作法を叩きこまれる。上手にこなさなければ僕の母親に叱責され、うまくこなしたって嫌味が待ってる。きっと一度だって認められたことがない。なのに海雪は自分の環境を恵まれたものだと思ってる』
『……どういうことだ?』
『母さんに何時間もねちねちと詰られたり、下の妹にことあるごとに嘲笑されたり、せっかくできた友達と引き離されたり……とにかく何をされようが……お前は政略結婚の駒になることだけが存在意義なんだと言い続けられて育てられようが……海雪は感謝してるんだ。学校に行かせてもらった、食べさせてもらったって』
微かに息を吐き出し、高尾の言葉の続きを待つ。高尾はのろのろと何度か瞬きをしたあと口を再び開いた。
『海雪の意思なんかないんだ。政略結婚をして、高尾の家の役に立つのが当然だと、そう思ってる。思わされてる。お前の実母がしでかしたことの贖罪なんだと、罪を背負えと。僕の母親の、どの口が言えるんだ? だから色々考えた。あの子を高尾の家から解放する方法を』