クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 初めて触れる愛しい女性の唇に、歓喜で震えてしまいそうになるのを必死に耐えた。そして彼女を救い出せた安心感。

 これからは穏やかな、自分が否定され続けない日々を送ってほしい。




 夏にかけて行われた国際協力の話を海雪に伝えていなかったのは、高尾の入れ知恵だ。

 もし海雪に知られれば、他人に気づかいをする海雪のこと、大変な忙しい時期なのなら、結婚は戻ってきてからでいいなんて言い出しかねない、と。

 式のあと、緊張に身体をすくめる海雪を見て心が痛んだ。好きでもない男に嫁いで、いまから身体を暴かれる恐怖を抱えていると思うと、苦しくなった。

 いつか、君が俺を受け入れてもいいと思ってくれたのなら――。




 それでも、初めてふたりで眠る夜、普段よりよほどあどけない寝顔を見ていると、どうしようもなく切なくなって、そっと抱きしめてしまう。

 信じられないことに、寝ぼけた海雪は俺に身体を寄せてきた。感情が爆発しそうになるのを必死で耐えて、こめかみや頭に何度もキスを落とした。愛おしくてたまらない。

 そういえば葉山に行ったときも、車で眠る海雪の寝顔に胸がかきむしられて、ついこめかみにキスをしてしまったのだった。すぐに目を覚まされて、肝を冷やしたけれど……。

 大切にする。絶対に泣かさない。俺たちなりのスピードで、距離を縮めていけたらいい。そう思う。結婚が恋愛の始まりでもいいじゃないか。絶対に惚れさせる。



 そうして晩夏に行われた結婚披露宴を経てやってきた新婚旅行先のハワイで、俺はひとつ固く決意をする。海雪と距離を縮める……!

「なにか食べに出るか?」

 現地時間の午前九時ころにホノルルにある国際空港に到着した。
 手続きを済ませいちど宿泊する貸別荘に向かい、荷物を置いてから海雪に問いかける。

 彼女は俺に背を向け、天井まであるガラス窓から外を眺めていた。

 ガラス戸の向こうは、丁寧に手入れされた芝生の敷かれた庭、そしてその先に広がる、紺碧の海と突き抜けるような青い空。

 庭では寝そべることのできる丈夫なハンモックが揺れ、ティーという低木がところどころに茂る。この木はハワイの伝統的な生活に根付いているもので、葉はフラスカートやレイにも使われるのだと、先ほどこの別荘を案内に来た管理人が教えてくれた。
 海雪は振り向き目を輝かせる。
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