クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「実は気になっているお店があるんです。ホノルルの、ポキ丼の、テイクアウト専門のお店なんですが」
「いいな。ならビーチで食べようか」

 俺の返答に、海雪の瞳がきらきらする。なんてかわいいんだろう。

 高尾いわく、幼少期から海雪に許された「自由」は普段の食事だけだった。

 というのも、幼少期から海雪の世話係をしていた大井というお手伝いの女性は彼女をたいそう可愛がっており、とにかく食事には気を遣ってくれていたそうだ。ときに母屋から高級な食材を失敬しては離れの海雪に食べさせていたということだから、なかなかに胆力がある。

 そんなわけで、海雪は華奢な体つきのわりに食べることがことのほか大好きだ。それで胃袋を掴む……ではないけれど、式を挙げた当日など手料理を振る舞ったわけだ。そのためにしばらくの間必死で料理の練習をした。なにしろ普段は手料理なんてほとんどしたことがなかった。

 もぐもぐと幸せそうに俺が作った料理を食む海雪の表情は、信じられないほど愛くるしくて、胸を鷲掴みにされた気分になる。

 なんというか、とてつもない満足感があった。いま海雪を構成する血液や細胞の一部は俺の作った料理でできていると思うと、ぐっとくるものがある。

 高尾には『僕の妹をそんな目で見ないでほしい』と言われたが何が悪いのかわからなかった。……とまあ、

 そんなわけで、俺は彼女に料理が趣味だと嘘をついてある。これくらいの嘘は許されるだろう。というか許してくれ、と誰が聞いているわけでもないのに頭の中で言い訳をした。

 別荘を出て、レンタカーに乗る。
 ハワイでは日本の自動車普通免許で運転をすることが可能だ。

 ……というわけで俺にはひとつ考えていることがあるのだが、それはまだ内緒だった。だが、そのためにオープンルーフタイプのスポーツカーを借りたのだ。喜んでくれるだろうか、と少し弱気になっている俺の横で、流れていく景色に海雪は目をきらきらさせていた。海風が優しく吹く。

 海雪が希望していたポキ丼の店は、ワイキキにほど近いローカルタウンに古くから続く老舗の店舗だった。路肩のパーキングエリアに車を停め、観光客であふれかえる歩道を並んで歩く。

「そのお店、何年か前までは店内飲食もしていたらしいんですけど、息子さんに代替わりしてテイクアウト専門にしたら、かえって手軽さが受けてすっかり人気店になったんですって」
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