クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 雑踏を歩きながら、海雪がわくわくとそんな話をしてくれる。俺はそれが嬉しくて仕方ない。だってそれはこの旅行が楽しみで色々調べてくれたってことだろ?

「そうなのか」

 とはいえ大好きな女性と旅行をしている緊張でなんの面白味もない答えしか返せない俺に、海雪は構わずしゃべる。

「アヒポキのアヒはマグロで、ポキはお刺身って意味らしいです」

 へえ、くらいしか言えない。
 常夏の島の陽光に照らされて、いつも以上に海雪が眩しく見える。常夏の島とはいえ、過去に演習で米軍基地に訪れたのもこれくらいの季節だったが、朝晩は思ったよりも冷えていた記憶がある。いまだって昼前で暑いと言えば暑いものの、日本の夏と比べればそう暑すぎるという気温ではない。

 ないのに変な汗をかいている気がする。気分が高揚しすぎているせいだ。
 なにしろ、すぐ横で俺と揃いの結婚指輪をつけた最愛の人が笑顔で俺を見上げている。幸せすぎる。生きていてよかったとさえ思う。

 と、ポキ丼の店に向かう途中で、ふと気になる店を見つけた。アロハシャツの専門店らしい。華やかで鮮やかなシャツがショーウィンドウ越しに見えた。

 服さえ選んだことがない、と言っていたか。

 ちらりと海雪を見れば、シンプルな白のワンピースが常夏の風に揺れる。彼女の服装はいつもこんな印象だ。上質で、清楚で、上品で。きっとこれが「高尾の娘」としてふさわしい服装なのだろう。

 けれど、君はもう高尾海雪じゃない。

 もちろん、いままでの服装だって似合っている。似合っているのだけれど。

「ちょっとあの店、いいか」

 声をかけると、海雪はこくんと頷く。

「アロハシャツですか。似合いそうですね柊梧さん」

 にこにことそう言ってくれる海雪と店に入る。俺に似合うかどうかはもはや関係ない。ただこれにかこつけて、海雪に華やかな服装をさせてみたかった。街中を歩くとき、彼女はそういった色彩のファッションを少し羨ましそうに見ていることがあったから。

 俺は適当に目についた紺色のアロハシャツを選ぶ。紺とはいっても華やかなハイビスカスがデザインされているものだ。

「試着しなくていいんですか」
「俺はな」

 俺の返答に、海雪が小首をかしげる。俺は真剣に海雪に似合うシャツを探し、ふと目についた一枚のシャツを彼女にあてがってみた。

「これはどうだ?」
「え」

 ぽかん、としたあと、海雪は慌てて首を振る。
< 44 / 110 >

この作品をシェア

pagetop