クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「わ、私はいいです」
「それは困る。俺だけアロハなんて、ひとりで浮かれているみたいじゃないか」
「あ、えっと、それは」
「いいから選べ」

 ぶっきらぼうな言い方になってしまって後悔しつつ、海雪をそっと窺う。海雪は少し迷ったそぶりをしたあと、思い切った様子で俺からシャツを受け取り、おずおずとそれを羽織った。

「どう、でしょうか……」

 かわいい。

 思った言葉はそれだけだったのに、言葉になってくれなかった。悔しい。いいんじゃないか、みたいなことを口にしたと思う。

 真っ赤なアロハシャツは、思った以上に海雪に似合っていた。陶器にように透明感のある白い肌に華やかな赤はよく映えた。

「ほかも見てみればいい」
「……これがいいです」

 海雪は鏡を見ながら、わずかに声を弾ませて言った。

「これが……柊梧さんが選んでくださったものが」

 愛おしくて泣きそうになった。どうしてそんなに嬉しいことを言ってくれるんだろう。
 でも、海雪が選ばなければ意味がない。
 結局、なんとか海雪にも選んでもらい、二着とも購入することにした。

「あ、ありがとうございます……」
「奥の試着室を借りた。着替えてくるといい」

 俺の言葉に、海雪がぽかんとする。ひょいと現れた店員が、海雪を引きずって試着室に消える。海雪が着替えている間に会計を済ませ、俺は紺のアロハシャツをTシャツの上から羽織った。

 試着室から出てきた海雪は、少し落ち着かない様子を見せていた。さっきの赤のアロハシャツにジーンズ、スニーカー。全てこの店で購入したのもだ。

「す、すみません。こういった服装に慣れていなくて」

 そう言いながらも、嬉しそうに鏡で自分の服装をながめている海雪にホッとする。紙袋に海雪のワンピースともう一着のアロハシャツをを入れてもらい、店を出た。出たところで、ふと思いついて隣にあった雑貨店に入る。不思議そうな海雪の顔に、サングラスをかけた。うん、似合う。

「え」

 驚く彼女を尻目に、俺もサングラスを選んで購入する。
 浮かれた新婚の観光客の出来上がりだ。

「わあ、サングラス」
「……眩しいからな」

 俺は端的に答え、店を出る。海雪がショーウインドウに自分の姿を映し、頬を緩めているのがわかった。
 もっと好きに生きていい。好きな服を着て、好きなことをしてほしい。
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