クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
どっどっどっどっど、と心臓が強く拍動する。アドレナリンで脳が興奮していた。君が好きだと告げるとしたら、今じゃないか? だめか? まだ早いか?
「俺が、一番好きなのは」
「好きなのは?」
優しく動く海雪の唇から目が離せない。海雪は口紅を塗らない。それでも赤い柔らかな唇──結婚式で、いちどだけ触れたそこ。
「好きなのは──」
海雪の呼吸が、一瞬止まった気がした。そっとその頬に触れると、海雪が目を伏せて細めた。目元にさっと朱色が散る。
息が苦しい。
全力で走ったときよりも、心臓が高鳴っている。酸素が足りていない。
いや、足りないのは酸素じゃなく……。
海雪が目を開く。その大きな瞳は、まっすぐに俺を捉えて揺れていた。
ゆっくりと顔が近づく。海雪の吐息が直接感じられる、その距離──……!
「Hi! Can l come in?」
朗らかな声にバッと海雪が俺から距離をとる。振り向けば、明るい表情の店員がカチューシャとベネチアンマスク片手に部屋の入り口に立っていた。どうやら客がつけていた仮装は、店が雰囲気を出すために提供しているものらしかった。
押し付けるように渡されたそれを、気恥ずかしさから逃れるように着ける。普段なら絶対しないのだけれど、脳内が混乱していたのだ。
そして視線を海雪に戻してさらに脳内が混乱する。
「仮装なんて初めてです」
そう恥ずかしげに言う海雪に猫耳が生えていた。眉を下げ、少し上目遣いに俺を見る海雪……。
瞠目して固まる。なんだこれ、変な性癖に目覚めそうで怖い。いや多分目覚めた。かわいいというか、あざといというか、これは無理。愛くるしすぎて死ぬ。
「や、やっぱり似合いませんよね」
外そうとしたその細い手首を握る。
「柊梧さん?」
「外すな」
「ど、どうして」
「……猫派なんだ」
海雪がきょとんと目を丸くする。この言い訳はさすがに無理があったか……??
けれど海雪はにっこりと笑い「そうなんですねー」となぜか納得した。
「私も好きです、猫。飼ったことないですけど」
「いつか飼おうか」
「猫を?」
「そう。君が飼いたいのなら」
海雪は想定外だ、という顔をした。それから少し泣きそうな顔をする。
「柊梧さんは、どうしてそんなに優しいんでしょう」
「誰にでも優しいわけじゃない」
「優しいです。あの、勘違いじゃなければ」
「俺が、一番好きなのは」
「好きなのは?」
優しく動く海雪の唇から目が離せない。海雪は口紅を塗らない。それでも赤い柔らかな唇──結婚式で、いちどだけ触れたそこ。
「好きなのは──」
海雪の呼吸が、一瞬止まった気がした。そっとその頬に触れると、海雪が目を伏せて細めた。目元にさっと朱色が散る。
息が苦しい。
全力で走ったときよりも、心臓が高鳴っている。酸素が足りていない。
いや、足りないのは酸素じゃなく……。
海雪が目を開く。その大きな瞳は、まっすぐに俺を捉えて揺れていた。
ゆっくりと顔が近づく。海雪の吐息が直接感じられる、その距離──……!
「Hi! Can l come in?」
朗らかな声にバッと海雪が俺から距離をとる。振り向けば、明るい表情の店員がカチューシャとベネチアンマスク片手に部屋の入り口に立っていた。どうやら客がつけていた仮装は、店が雰囲気を出すために提供しているものらしかった。
押し付けるように渡されたそれを、気恥ずかしさから逃れるように着ける。普段なら絶対しないのだけれど、脳内が混乱していたのだ。
そして視線を海雪に戻してさらに脳内が混乱する。
「仮装なんて初めてです」
そう恥ずかしげに言う海雪に猫耳が生えていた。眉を下げ、少し上目遣いに俺を見る海雪……。
瞠目して固まる。なんだこれ、変な性癖に目覚めそうで怖い。いや多分目覚めた。かわいいというか、あざといというか、これは無理。愛くるしすぎて死ぬ。
「や、やっぱり似合いませんよね」
外そうとしたその細い手首を握る。
「柊梧さん?」
「外すな」
「ど、どうして」
「……猫派なんだ」
海雪がきょとんと目を丸くする。この言い訳はさすがに無理があったか……??
けれど海雪はにっこりと笑い「そうなんですねー」となぜか納得した。
「私も好きです、猫。飼ったことないですけど」
「いつか飼おうか」
「猫を?」
「そう。君が飼いたいのなら」
海雪は想定外だ、という顔をした。それから少し泣きそうな顔をする。
「柊梧さんは、どうしてそんなに優しいんでしょう」
「誰にでも優しいわけじゃない」
「優しいです。あの、勘違いじゃなければ」