クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
『詳しくは、まあ、本人から聞くだろうけれど……変に母さんあたりから耳に入っても何だから伝えておくと、天城は結婚さえすれば……つまり、ウチの病院との繋がりさえ作ればあとは自由にしていいと言われているようなんだ。もともと実家に関わりたくなくてボウイに入るようなやつだから』
『ボウイ?』
『ああ、防衛医大。あそこは学費がかからないし、幹部自衛官としての訓練も兼ねるから給料まで出るんだ。もちろんそのぶん大変だろうとは思うけれど』
『そうなんですか……』

 それだけ大変な思いをしても、ご実家の世話になりたくなかった。なにがあったのかまでは分からないけれど、それだけの確執があったのだろう。
 そう考えて納得し、頷いた。

 天城先生は天城病院にこれ以上関わりたくなく、私とのお見合いを……ううん、結婚を了承したのだ。

『見合いといっても、そう気張ったものじゃない。天城がどこかでランチでもと言っていたから、とりあえず話だけでもしてくるといい』

 雄也さんが微笑む。私も頷き返しながらふと思った。
 天城先生でよかったって。
 一か月ほど前だろうか。天城先生が救急搬送されてきた患者さんの心臓マッサージにあたっているところに出くわした。

『戻って来い!』

 必死な声だった。患者さんの命を決して失わせはしないという悲愴なほどの決意に満ちた力強い声だった。
 いいドクターなのだろうなと思った。自然と湧いてくる尊敬の念にぐっと拳を握る。どうか患者さんが助かりますように。それだけを願った。

 そんな尊敬する天城先生となら……もしかしたら、いい家庭を作れるのかもしれない。頑張ってみたい。

 愛されたいとまでは願わない、ただ家族として接してくれたのなら……。
 そんな想像をすれば、ほんの少しだけ胸が温まった。


***

「海雪……という名前はどなたが?」

 ハッとして前を向く。息の詰まる空間についぼうっとしてしまっていた。

「あ、あの?」
「……気もそぞろのようですね」

 淡々とした口調で返され、顔から火がでるかと思うほど恥ずかしい。

「も、申し訳……」
「謝罪が欲しいわけではありません」
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