クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 海雪は真っ赤になって何度も目を瞬く。かわいくて死にそうだし、俺の心臓は相変わらず速いペースで動いている。



 別荘に戻り、シャワーを済ませてベッドに潜り込む。クイーンサイズのベッドだ。いつも端と端で眠っていたけれど、今日はくっついて眠る。

「おやすみなさい」

 信頼たっぷりの瞳で言われて、俺は自身の欲望が鎌をもたげるのを必死で押さえつける。せっかくここまで信頼を得たのに、自ら台無しにするようなことはしたくない。
 したくないけれど、生殺しだ。
 俺はすやすやと眠る大好きな女性の寝顔を見つめながら、せめて手くらいは許されるとその小さな手を握る。
 おやすみ海雪、よい夢を。


 起きれば海雪と目が合う。

「おはようございます」

 まだ少し眠そうな声で言われて、全身が蕩けそうなくらい幸せだ。


***

 そんなふうに少しは距離が近づいたような気がする、と思いながら帰国した俺にものすごく急に告げられたのは護衛艦に乗務しての、約二ヶ月の遠洋での訓練だった。
 どうやら予定していた医官が俺が結婚休暇中に虫垂炎になってしまったらしい。

 日本近海での訓練には、基本的に医官は乗船しない。緊急時はヘリなどで対応可能だからだ。

 だか遠洋ではそうはいかない。そのため医官も帯同せねばならないし、その場合は大抵が訓練日程などは機密にあたる。

 つまり、いつ帰宅するかも告げられない。

 海雪はどう思うだろうか、と秋の夜風に気を重くしつつ帰宅する。せっかく距離が縮まったのに、また二ヶ月も家を空けることになる。
 玄関のドアを開けると、ふわりとダシと味噌のいい香りがした。

「おかえりなさい」

 廊下を、ぱたぱたとスリッパで音を立てて海雪が迎えに出てくれた。彼女が身に着けているエプロンは、ハワイで買った少し鮮やかな色彩のもの。よく似合っているし、にっこりと微笑む唇も魅力的だ。見るたびにかわいさが増している気がする……と、頬がにやけるのをぐっと耐えた。

「海雪」
「はい」
「明日からしばらく留守にする」

 スリッパに履き替えながらそう告げると、海雪は少し考えるそぶりを見せたあと、こくんと頷いた。

「わかりました」

 あっさりとした反応に、内心、ほんの少しだけ、寂しくなる。
 泣いてすがってほしいとは言わないが、もう少し寂しそうにしてくれてもバチは当たらないはずだ。
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