クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 そう思いつつ向けた背に、ふととすんと温もりがぶつかる。
 ぶつかるというか、……腹に回った細い手に目を落とす。海雪に抱きつかれている。

「海雪?」

 海雪は俺の背中に顔を当てているらしい。そのまま少し黙ったあと、蚊のなくような声で、細く細く、小さく告げた。

「寂しいです」

 心臓がぎゅうっと握りつぶされたかと思った。切なさと歓喜が全身で暴れる。

「ご、ごめんなさい」

 そう言いながら海雪が俺から離れる──振り向いてその腕を掴み、腕の中に閉じ込めた。

「海雪」
「っ、その、違うんです」

 海雪は耳朶まで赤くして目線をうろつかせる。

「なにが違うんだ?」

 違わないだろ、そう思いながら顔を覗き込んだ。海雪は泣きそうになりながら俺を見つめ、また「ごめんなさい」と呟く。

「謝るな」

 声が掠れた。そのまま唇に、ずっとまた触れたかったその唇に噛み付くようにキスを落とす。やっとキスできた海雪の口内を、たっぷりと味わう。柔らかな頬の内側、口蓋、歯の一本一本に至るまで。

 舌を擦り合わせ、絡ませて軽く吸う頃には、海雪の身体からはこてんと力が抜けていた。その細い腰を支えるように、さらにキスを続ける。

 下唇を甘噛みしてから離れれば、海雪のとろんとした瞳と目が合った。

 たっぷりと潤んだ瞳に、どこか淫らに寄る柳眉。上気した頬は、血の色を透かす。うっすらと開いた唇から、官能的な舌がちらっと見え隠れしていた。
 ずくん、と本能が体内で暴れる。

「柊梧さん……」

 海雪の薄く開いた唇が、細い声で俺の名前を呼ぶ。蕩け切った声に、ついに理性を情動が凌駕した。

「海雪……っ、嫌なら抵抗してくれ」

 俺は掠れ切った声でそう告げながら、海雪を横に抱き上げる。少し手荒な仕草だったけれど、海雪は抵抗するそぶりを見せず、逆に俺の首に腕を回しぎゅっと抱き着いてきた。

 至近距離に愛おしい女性の顔がある。
 その額に、こめかみに、頬に、鼻に、何度もキスを落としながら寝室へ向かう。明かりはつけなかったが、廊下から差し込む明かりでほの明るい。

 ベッドに横たえ、覆いかぶさってもう一度唇を重ねた。触れるだけのものを、すこしずつ深くしていく。酸欠に喘ぐように漏れる声がたまらなく淫らで、下半身に血が巡る。

「ん、あ、柊梧さん」
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