クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
3章
【三章】海雪
妊娠しているのに気が付いたのは、柊梧さんがお仕事で船に乗って一か月ほどしてからだった。
仕事も退職し、とりあえず運転技術を磨こうと車のディーラーからもらってきたパンフレットをながめていたときのこと。突き上げるような吐き気に襲われた私はトイレニかけこみ、ついでに「あれ」と目を丸くした。
最後に生理が来たのって……新婚旅行前だ。
帰国してすぐに、なにがどうなってああなったのかは分からないけれど、柊梧さんに抱かれた。ものすごく丁寧に、甘く、優しく……。
あの夜を思い出すと、胸の奥が切なく甘く、きゅうっと痛む。柊梧さんに会いたいなと思ってしまう。寂しいって……。
これは、一体なんという名前の感情なのだろう。わからない。わからないけれど、嵐のようにこの感情に襲われるたび、スマホを握って「寂しいです」と伝えそうになってしまって慌てて自制した。
きっと彼は、お仕事で忙しくて私のことなんか思いだしてもないだろうし、会いたいなんて言われても迷惑なだけだろう。でも気遣ってはくれると思う。とっても優しい人だから。だからこそ、安易に甘えられないと自分に言い聞かせた。彼はお仕事で大変なんだから。
「妊娠六週……」
私は病院の帰り、海の見える公園で冬になりつつある潮風に頬を撫でられながら呟いた。手には白黒のエコー写真がある。病院では赤ちゃんの心音も聞かせてもらった。でもまだ現実感がない。あるのはぼんやりとした吐き気だけだ。