クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「ものすごく元気ですよ」

 アップルパイによく合う紅茶を淹れながら答える。ふんわりとした香りがリビングを満たした。
 ローテーブルに紅茶を置き、お皿にアップルパイを取り出した。相変わらずおいしそうなそれを目にしたところで……唐突な吐き気が胃を締め付ける。

「う……っ」

 トイレでは間に合わないと判断し、キッチンに駆け込んで胃の中身を吐き出した。
 嘘でしょう、あんなにおいしそうなアップルパイなのに……なんで吐いちゃうの。つわりってこんな感じなの?

 ものがなしい気分になりつつ顔を上げると、雄也さんがいつの間にか私の横に立っていた。吐いたものを見られている、と慌てて流そうとすると手を止められる。

「色に異常はないかな。血もなし……海雪、腹痛は? いま初めて吐いたの?」
「え、えっと」
「下痢はしている? 頭痛やめまいは」
「あの、大丈夫です。その」
「大丈夫、じゃない。吐いてるんだぞ。あいつがいない間に君になにかあったら、僕が殺されちゃうよ。うん、熱はなさそうだね。お腹に触ってもいい?」

 診察され始めてしまって、慌てて「つわりだと思います」と細い声で告げる。
 雄也さんはぽかんとしたあと、あんぐりと口を大きく開く。

「つわり」
「に、妊娠……してました」
「天城には」
「まだ……ですけど」
「どうして」

 どうして?
 私は首を横に傾げつつ、口を開く。

「お仕事の邪魔をしたくなくて」

 結局、さっきと同じ答えを繰り返しただけだった。けれど雄也さんはひたすらに慌てたように「知らせた方がいい」と繰り返す。

「絶対に大喜びするから」
「そうでしょうか。優しいかたなので、気遣ってはくださるとは思うのですが」
「気遣うどころじゃすまないよ。そりゃあ、すぐに連絡が取れる場所にいるわけではないと思うけど……とにかく、ほら」

 口を注いだ私を雄也さんはソファに座らせ、その間にアップルパイは片づけてくれた。

「つわりって、日によって症状が違うらしいから、明日には食べられるかも。無理なら捨ててくれて構わないから」
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