クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
 やっぱり優しい人だなと頷く。その頷いた姿勢のまま、私はまたもやフリーズしてしまった。……強く、抱きしめられたから。

「海雪、伝えたいことがある」
「は、はい……」

 私は彼の固い身体の温かさに頭の奥をじんとしびれさせながら返事をする。彼のにおいがする。胸が切なさでぎゅうっとした。会いたかった、という言葉が口からでかかってきゅっと飲み込んだ。きっとそんな言葉、彼は望んでいないから……と思った矢先、彼から発されたのは想定外の言葉だった。

「海雪、会いたかった」
「……え」
「本当に……ずっと君のことを考えていた。どこにいても、なにをしていても」

 自分の耳を疑った。彼はなにを言っているの? 自分が信じられないのに、勝手に鼓動は速くなって身体が熱くなる。

 柊梧さんは何度か深呼吸をした。それから意を決したかのように私を抱きしめなおす。

「愛してる。……俺と結婚してくれてありがとう」

 柊梧さんの、ひどく速い鼓動が伝わってきていた。
 私は信じられない思いで身体を強張らせて目を見開く。
 いま、柊梧さんは、なんて……? 愛してる?
 やっぱりこれ、夢なのでは。
 むにっと頬を再びつねる私から、柊梧さんは軽く体を離し眉を下げた。

「突然で、なにを言っているのかと思っているかもしれないが……」
「あ、そ、その、すみません。びっくりして」
「それはそうだ」

 やけに真剣に彼は頷く。
 どうして急にそんなことを……と思うけれど、すぐに納得する。私が妊娠したからだ。柊梧さんは子供が好き?

 ううん、というか、こんなに優しい人なんだもの。
 自分の子どもを妊娠した私を、より一層大切にしようと決意したってなにもおかしくはない。

 それがどこか、くすぐったいように嬉しくて、お腹の赤ちゃんに感謝したくなる。

 家族という存在に、心の奥底で、ずっとずっと憧れてきた。高尾の家のために政略結婚せねばならない以上、望んではいけないと思いつつ、ずっと……。

 なのに。
 政略結婚なのに、柊梧さんはそれをかなえてくれようとしている。

 私も、家族として彼のことを、もっと大切にしたい。愛したい。お腹の赤ちゃんのお父さんお母さんとして、家族として愛し尊敬しあえる、そんな関係でいたい。
 私はそっと肩から力を抜いて、少しだけ笑ってみせた。
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