クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「柊梧さん。その、びっくりはしましたけど、でも、とても嬉しいです。私も、あなたのことを……尊敬しています。妻として、あなたを愛していきたいと、思っています」

 訥々となりつつも、一生懸命にそう告げた。ちゃんと言いたいことは伝わっただろうか。恋愛関係はなくとも、尊敬しあえる夫婦になりたい。優しいお父さんお母さんになりたいの。

 少し不安になりつつ、そっと彼の顔を伺い見て――。
 その瞬間の彼の表情を、私は死ぬまで忘れられないだろう。

 安堵と、歓喜と、それから色んな感情がない交ぜになって……泣き出しそうな、笑いだしそうな、そんな表情だった。

「海雪……っ」

 柊梧さんは私の頬をその大きな手のひらで包み、触れるだけのキスを顔じゅうに降らせる。その少しかさついた柔らかな温かさが、どうしてだろう、泣いてしまいたいくらい切なくて嬉しい。

「会いたかった」

 その切なさに押されぽろっと零れた言葉に、柊梧さんは蕩けるような笑みを浮かべて「俺も」と答える。

「さっきも言ったけれど、本当に君に会いたくて……つわりも心配だった。どうだ? いまは十週くらいか。すこしは落ち着いてきたのか?」

 そう言いながら、彼は私の横に座り直し私の肩を抱く。
 されるがまま、素直に彼の肩に頭を預けつつ、お腹を軽く撫でた。

「吐きづわりは、ずいぶん落ち着いてきました。でも眠くて」
「眠りづわりかな。眠いときはとにかく寝ているといい」

 な? と優しく彼は私の髪を梳くように撫でた。硬い指先から確かに感じる慈しみに、鼻の奥がつんとして、目の奥が熱くなった。

 確かな幸福だった。
 死ぬまで与えられるはずのなかったもの。

 ぎゅうっと目を閉じる私を、彼が柔らかく抱きしめた。

「海雪?」
「ごめんなさい、ごめんなさい」

 なにに対して謝っているのか、わからなかった。そんな私を柊梧さんは抱きしめ、優しく背中を撫で続けてくれた。何回も、私が泣き止むまで、ずっと、ずっと。



 一週間ほど休暇があるらしい柊梧さんの、私への甘やかしっぷりは少し困惑してしまうほどだった。
 まず目が覚めて、身動きが取れないことに驚く。
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