クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「でも海雪みたいな子にはお見合いがちょうどいいわ。自由に恋愛なんてさせたら、男を取っ替え引っ替えして高尾家の名前に泥を塗るでしょうから。なんせ、あのふしだらな泥棒猫の娘ですもの!」

 哄笑する義母に「……申し訳ありません」と頭を下げる。

 実母が、父と不倫して私を産んだのは事実だ。DNA鑑定までしたらしいとのことだから、疑いようがない。

「では、失礼します」

 もう一度頭を下げて母屋のリビングを出ようとドアノブに手をかけた私の背中に、こつんとなにかが当たった。
 振り向くと、絨毯に指輪が落ちていた。大きな赤い宝石が嵌ったものだ。

「それ、もう飽きたからあげるー。新しいの買ったし」

 愛菜さんが唇を歪めた。一瞬よくわからない感情で苦しくなるけれど、そっと息を吐く。
 ……この人たちをこんなふうにしてしまったのは、きっと私と実母だから。苦しませて、歪めてしまった。ごめんなさい、と心の内で呟いた。

 実母と父が道理を外れたとしても、せめて私が生まれてさえいなければきっと、もう少しお義母さんの心の持っていきようもあったはずだ。

 指輪を拾い、ローテーブルに置く。ことりと冷たい音がした。

「お気持ちだけ……その、私にはこんな素敵な指輪、似合いませんから」

 答えを聞く前にリビングを出た。


 長い廊下をぐるりと回ると、外廊下に繋がる扉がある。
 その外廊下の先にあるのが、私が小さい頃からひとりで暮らす離れだ。和室と洋室、キッチンなんかの水回りが完備されている。

「あら、おかえりなさい海雪ちゃん。お見合い、どうだった?」

 お手伝いの大井さんが、パタパタとキッチンから出てきた。大井さんは小さい頃から私の面倒を見てくれている女性だ。彼女には私と同じ歳の息子、毅くんがいて、彼は私同様に雄也さんの秘書をしていた。毅くんとは幼馴染と言っていいだろう。物腰が柔らかくて穏やかな男の人だ。同じように大井さんも穏やかで明るく、私は本当の母のように彼女を慕っていた。

 戸籍上の家族である、高尾家の人たちより、よほど。
 私は肩をすくめて「ものすごく無言でした」と苦笑した。

「無言?」
「全然会話、できなかったです」
「あらぁ、それは海雪ちゃんがあまりにも綺麗で緊張してしまったのね」
「まさか!」

 目を丸くすると、大井さんは明るく笑って「絶対にそうよ」と断言する。
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