クールな海上自衛官は想い続けた政略妻へ激愛を放つ
「海雪ちゃん、とっても美人なんだもの」
「そんなこと……」

 苦笑しながら短めの髪に手で触れた。
 本当は伸ばしてみたいと思っている髪の毛。けれど髪の長かった実母と面影が被るからと、義母に禁じられているのだ。同様に、華やかに着飾ることも。
 いつもモノトーンに近い服装で、化粧っ気もない。自分のことを「綺麗」だなんて思ったことがない。

「お目目もぱっちりで、まつ毛も長くて。あーあ、あたしもこんなふうに鼻筋が綺麗だったら良かったのに」

 大井さんは何度も私のことをかわいい綺麗だと褒め倒して、それから慌てたように時計を見た。

「あら、もうこんな時間! 母屋のお夕食手伝いに行かなくっちゃ。海雪ちゃんのはキッチンに置いてあるからね」
「わ、ありがとうございます」

 私が成人してからはお世話係を外れたというのに、時折こうして世話を焼きにきてくれる。
 キッチンをのぞけば、美味しそうな肉豆腐とサラダがあった。鍋にはお味噌汁も。
 冷蔵庫から昨日炊いていたご飯を取り出し、レンジで温める。
 ひとりで席につき、小声で「いただきます」と手を合わせた。

「結婚したら……」

 小さく呟く。結婚したら、天城さんと家族になったら、私はこうしてひとりで夕食を食べなくても済むのだろうか?
 誰もいないテーブルの向こうに、夫となった天城さんの姿を思い描く。あまりに想像がつかなくて、小さく笑ってしまった。
 天城さんには、このまま結婚するまで特に会うこともないだろうな。

「すぐにでも入籍するよう、お父さんには言われているけれど……」

 式や披露宴はどうするのだろう?
 天城さんは、こんな政略結婚で式なんかしたくもないのかも知れないけれど。
 微かに嘆息する。

 もちろん最初から恋愛なんて、諦めていた。

 でも心のどこかで願っていた。本当に愛する誰かと、幸せいっぱいの中で結婚式を挙げられたら……って。
 とうてい叶いそうにない。もっとも、そんな夢を抱くこと自体が不相応だったのだろう。

 そう思った瞬間、テーブルに置いていたスマホが振動した。食事中だけれどマナー悪く開いて、メッセージの差出人に目を丸くする。

「天城さん?」

 お見合い前に、雄也さんに連絡先を教えてもらっていたのだ。天城さんも雄也さんに聞いたのだろう。
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