噛んで、DESIRE
「マジあぶねえ。杏莉ちゃん泣かすとこだった」
そう言った彼の表情は腕で隠れて見えなかった。
なにが危ないのか、わからない。
言うなれば、吾妻くんの存在自体がキケンだ。
困ったように嘆いた彼は、わたしから距離を取るように離れていく。
そのまま歩いて行こうとした吾妻くんの体温が消えていくのが寂しくて、思わず彼の服の袖をギュッと掴んだ。
振り返った彼は、わたしが握っている裾を一瞥して、感情の読めない声で尋ねてくる。
「なに?」
機嫌が悪くなったのかもしれない。
声のトーンが少しだけ下がったのに気付く。
……吾妻くんは、難しい人。
用もなく引き止めただなんて言えなくて、無理やり理由を作って口を開いた。