噛んで、DESIRE



「ふは、見惚れてんの」

「……自意識過剰ですよ」

「素直じゃねえなあ」


意地悪な吾妻くんからふいっと視線を逸らして、自分の支度を続ける。

滅多に巻かない長い髪をコテでくるくるしていると、彼が興味津々というふうに見ているのに気付く。

首を傾げると、吾妻くんは楽しそうに口を開いた。


「俺、こっちのが好きかも」

「巻いてる方が、好きなんですか」

「ん、なんか大人っぽくていーじゃん。でもいちばん好きなのはお風呂上がりだけど」

「そう、ですか」


吾妻くんは、巻いている髪が好き。

しっかりインプットしながら、上機嫌でコテを回す。


……普段も、時間があれば巻いてみようかな。

そう思っているわたしは単純だけれど、わたしをこんなふうにしたのは吾妻くんだから、彼にも責任があると思う。


そんなこんなで持ち物の確認と前髪の確認が終わり、いつまでも暇そうにスマホをいじっている吾妻くんを促す。





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