噛んで、DESIRE



「行きますよ、吾妻くん」


ぱっと顔を上げてスマホをポケットに突っ込んだ吾妻くんは、わたしを見上げて、一瞬目を細めた。

何を考えているのかわからなくて見つめ返すと、彼は少し不機嫌そうに呟いた。


「スカート履いてないのは合格」

「……はい?」


「でも髪も服も普通に似合ってて、いつもと違う雰囲気出してるしさあ」

「えっ、と?」


「これがふたりっきりのデートなら、気分良かったのにね?」


それから機嫌を損ねた吾妻くんは、さっさと玄関へと向かってしまう。


……デートなんて、ありえないのに。

初々しい単語は、吾妻くんには似合わない。


だから必然的に、わたしと彼がデートするなんて、あるはずがない。


野良猫みたいに気分屋な彼を追いかけつつ、その背中に疑問をぶつけてみる。



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