噛んで、DESIRE
「あの、わたし……お化け屋敷、たぶん、苦手です」
「へえ。たぶんだったら、1回行ってみないと」
「む、むむ無理です!」
「だいじょーぶ、そんな怖くないって」
「信じられません……!」
口角を上げて楽しんでいる吾妻くんを信用しろなんて無理な話だ。
……吾妻くんは、本当に怖いものがないんだな。
絶叫系も、ホラー系も、だれかに根も葉もない噂をされることだって。
もっと恐れてもいいはずなのに、怖いくらい肝が据わっている。
それには理由があったとしても、わたしは聞けない。
吾妻くんは、見えない壁を作るのが上手だから。
「う……っ、勘弁してください」
どうしても苦手で、いつになく頑固になってしまう。
俯くと、吾妻くんがため息をついて言った。
「しゃーなしで、今日は許してあげる」
「うっ……ありがとうございます」
「怖がってる杏莉ちゃんレアだから見たかったんだけどなあ?」
「そんなの見なくていいです……」