噛んで、DESIRE
吾妻くんは物好きだ。
いつものことだけれど、心の奥で何を考えているかわからない。
「じゃあ、やっぱりメリーゴーラン……」
「しつこいよ、杏莉ちゃん?」
そんな口論をしながらも、さて次は何を乗ろうかと考えていると。
愉快な音楽がパーク内に流れている中、突然、誰かがこちらに駆け寄ってくる音がした。
誰?と思う隙もなく、その音は、吾妻くんの目の前でピタリと止まった。
「────あなた、吾妻のお坊ちゃんですか?!」
……吾妻の、お坊ちゃん?
聞き慣れない言葉にびっくりして顔を上げると、そこには小さなお子さんを連れた30代後半くらいの女の人が立っていた。
彼女の表情は驚きに満ちていて、吾妻くんを見つけた途端急いで駆け寄ってきたのだろうと悟った。
……どういう、関係?
わけがわからず混乱していると、吾妻くんは無表情で女の人を一瞥した。
そして、いつもよりずっと冷たい声で返答する。
「サキさん。もう俺はもう吾妻の者ではないと、あの家で最後に言ったはずです」
「でも……っ、お坊ちゃんの帰りを、ずっと旦那さまは待っておられます」
「そんなのは、世間体でしょう。父から脱獄した俺を、誰が待っていると言うのですか」
「そんな……」