噛んで、DESIRE
「あと杏莉、少し元気ないように見えるけれど大丈夫?」
「……うん、大丈夫だよ。ちょっといろいろ、考えちゃって」
「そっかあ、無理しないでね」
「もちろん」
澪子の優しさに救われながら、考える。
吾妻くんとは、今夜少しだけ話そうと思った。
ちょっとでも、彼の力になれるのなら、何でもしたいと思うから。
でも吾妻くんは人に頼ることは苦手なのだとわかっているから。
わたしが彼の心のよりどころになればいいなって、最近はずっとそう感じている。
ニコッと微笑むと、澪子は優しい表情を浮かべたあと、思い出したように口を開いた。
「そうだ、今日放課後、杏莉のお家遊びに行っていい? 最近忙しくて行けてなかったからさ」
ギクリ、と肩に力が入る。
だって家には、当たり前のように吾妻くんがいる。
澪子が家に来て彼を目撃してしまったら、とんでもないことになってしまう。
それは避けなければ……と心に誓い、なんとか平静を装って答えた。
「あっ……今日は、ちょっと都合悪くて」
「そう? じゃあ、また行かせてね」
「うん、わかった。ありがとう」
はーいと返事をして自分の席に戻って行った澪子と入れ替わりに、吾妻くんがわたしの隣の席に座った。
その様子を横目で見ながら、今日も変わらず眠そうな吾妻くんはいま、何を考えているのだろうと不思議に思った。