噛んで、DESIRE
洗面台からドライヤーを掴んで、すぐにリビングへと戻る。
下座って、と吾妻くんに言われて、おとなしくソファの上にいる彼の前に、三角座りをした。
「ほんと、従順だね」
可笑しそうに表情を歪める彼は意地悪だけど、今日も今日とて美しいのだから文句も出ない。
さらさらとわたしの髪を撫で、吾妻くんは優しい手つきでドライヤーを乾かしてくれる。
風の音で言葉を発しても聞こえないと思い、静かに目を閉じる。
……ずっとこんな平穏な日々が続けばいいのにな。
帰ってきたら、吾妻くんがいる。
イレギュラーだったはずなのに、日常になっている。
そうしたのは自分だけれど、改めて考えると不思議なようで幸せな気分だった。
吾妻くんの大きくて温かい手に包まれながら、ただ沈黙を楽しむ。
数分後、カチッと音がして風の音が止んだ。
「ん、完了」
「ありがとう、ございます」
「いーえ」