噛んで、DESIRE
苦笑することしか出来ないわたしを、吾妻くんはじっと見つめていた。
視線を感じて横を見れば、思いのほか吾妻くんは真剣な表情をしていることに気づく。
……そうだ。
吾妻くんは、わたしが困るようなことをわざわざするはずがない。
わたしが花に対しての気持ちを悟っていて、それでいてこんなふうに持ち上げてくれたのだとすれば。
『杏莉ちゃんって、センスあるよね』
吾妻くんがくれたあの言葉が、本気なのだとすれば。
……わたしはいつまでも、過去に囚われている場合じゃないのかもしれない。
グッと拳を握り締める。
その様子を、澪子が遠くから心配そうに眺めていてくれたのはわかっていた。
でも、澪子にも、もう心配ばかりかけていられないと思っていた。