噛んで、DESIRE
夜を噛む
隣の席の吾妻くん
☽
「あ、今日は吾妻くん来てるじゃん」
朝、登校するなり澪子がわたしの隣の席を見て小さく呟いたのを、控えめにこくりとうなずいた。
いつもは空席のわたしのお隣には、色素の薄い金髪の男の子が机に突っ伏して寝ている。
いや、男の子、というのは少し違う気がする。
男の人、というほうがしっくりくる、そんな大人びたクラスメイト。
彼の長い足が机におさまらず放り出されているのを眺め、澪子は声のボリュームをさらに下げてわたしに言う。
「吾妻くん、かなり噂あるけどどれが本当なんだろうね」
「噂?」
首を傾げれば、澪子は呆れたように首を横に振る。
「もう……杏莉ってば、相変わらず噂に疎いんだから」
「だって……友達なんて澪子くらいだもん」
自分で言ってて悲しくなる。
でも、友達なんて数じゃないと思ってるから、気にしていない。
わたしは澪子がいれば十分だ。