噛んで、DESIRE
夜を噛む

隣の席の吾妻くん








「あ、今日は吾妻(あがつま)くん来てるじゃん」



朝、登校するなり澪子(みおこ)がわたしの隣の席を見て小さく呟いたのを、控えめにこくりとうなずいた。

いつもは空席のわたしのお隣には、色素の薄い金髪の男の子が机に突っ伏して寝ている。


いや、男の子、というのは少し違う気がする。

男の人、というほうがしっくりくる、そんな大人びたクラスメイト。





彼の長い足が机におさまらず放り出されているのを眺め、澪子は声のボリュームをさらに下げてわたしに言う。


「吾妻くん、かなり噂あるけどどれが本当なんだろうね」

「噂?」



首を傾げれば、澪子は呆れたように首を横に振る。


「もう……杏莉(あんり)ってば、相変わらず噂に疎いんだから」

「だって……友達なんて澪子くらいだもん」


自分で言ってて悲しくなる。

でも、友達なんて数じゃないと思ってるから、気にしていない。

わたしは澪子がいれば十分だ。




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