噛んで、DESIRE
わたしの髪を退けて、吾妻くんは首筋に唇を当ててくる。
慣れたような仕草が、彼の過去を物語る。
わたしがこんなにもドキドキして苦しくなっているのに、彼はいつも余裕だ。
吾妻くんは、わたしにドキドキするのだろうか。
彼がいままで関わってきた大人の女の人には、わたしはなれそうにない。
それがどうしても悔しくて、ぐるぐると胸の奥に黒いものが渦巻いた。
「……さ、くん」
「え、なんて?」
勇気を振り絞ったのに、ぜんぜん届かない。
吾妻くんがわたしを柔く抱きしめるたびに、心臓が怖いくらいうるさくなる。
……そうだ、名前で呼ぶくらい、たいしたことない。
別に、意識しなけりゃいいんだ。
何度も心の中で練習して、えいっとまたもや勇気を出して呟いた。