噛んで、DESIRE
「……っ、梓、くん」
肩に力が入りながらも小さく名前で呼べば、わたしの肌を撫でていた彼の手がぴたりと止まる。
「……おー」
そしてそんな気の抜けた返事をするものだから、びっくりして抗議する。
「お、おーって、なんですか……!」
「え、いやなんか、わかんね。動揺した」
「……ど、動揺?」
吾妻くんは、そう言ったっきり黙ってしまう。
不思議に思って後ろを振り返れば、少しだけ顔が赤くなっている彼が視界に入ってくる。
「え、吾妻くんが赤い……」
「は? んなわけないから」
即座に大きな手で目隠しされ、わたしの頭も混乱してしまう。
だって、吾妻くんのあんな顔、初めて見た。
余裕が剥がれ落ちた、そんな表情。
よけいにドキドキバクバクがうるさくなって、もはや自分の心臓の音だと思えなくなってくる。