噛んで、DESIRE


当の本人、吾妻くんはというと。

女の子の言葉に少しも迷うことなく、彫刻のような美しい微笑みを浮かべて口を開いた。


「あーライン? 俺持ってないわ」

「え……っ、そう、なんですか」


慈悲もなく、バッサリ。

彼女もびっくりしたように、言葉に詰まってしまっている。


見た目はたくさん遊んでいそうだから、ラインを持っていないなんてあり得ないと思っているのかもしれない。

……わたしも最初はびっくりしたなあ。


家の扉の前での出逢いが懐かしいと思うほど時間は経っていないはずなのに、かなり昔のことのように思えるのだから不思議だ。

それはたぶん、吾妻くんと過ごす日々が濃密で、毎日が楽しいからだと感じた。


「あの……っ、じゃあ、電話番号とか! メールとかはどうですか……?」

「んー、あんまスマホ触んないから、意味ないと思うよ」


「あ、……っ、そうですか」

「そ、だからごめんね」



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