噛んで、DESIRE
「だって杏莉ちゃんがいなかったら、俺あの日どっかでのたれ死んでたかもしんねーじゃん?」
吾妻くんはそう言うけれど、彼ならあの日、わたし以外に頼ることだって出来たはずだから、冗談なのはわかっていた。
でも、わたしはあの日、彼を受け入れて良かったと思っている。
そうじゃないと、孤独という闇でのたれ死んでいたのはわたしだったのかもしれない。
大袈裟かもしれないけれど、すでに吾妻くんにしか埋められない何かが、わたしの心に存在してしまっていたのだ。
「だからさあ、杏莉ちゃん泣かす奴は結構本気で潰しちゃおっかなって思ってるんだけど」
「……物騒ですよ」
「そ? いちお俺、それなりに得意だったけど」
シュッシュッと腕を交互に出して、彼は首を傾げた。
その動きは……きっと、喧嘩が得意だったと暗示しているのだと、思う。