噛んで、DESIRE
かなりヤンチャしていたのは噂通りらしく、思わず微妙な表情を浮かべると、彼は可笑しそうに口角を上げた。
それからわたしの前髪をさらりと撫で、優しい手つきに癒されて目を細めた。
「でもな、そんな道から外れたこともある俺でも、困ったことに杏莉ちゃんの父親には手ぇ出せねえんだわ」
びっくりするほど、とても低い声だった。
ハッとして吾妻くんを見上げれば、少しも感情のこもっていない笑みを貼り付けてわたしを見ていた。
いま、彼が何を考えているか見透かすことが出来ない。
……どうしよう、吾妻くんが怖い、かもしれない。
吾妻くんが本来こういう表情をよくするのだとしても、でも、わたしの前でこんなふうに無感情な顔をすることはなかったから動揺する。