噛んで、DESIRE
「あが、つまく……」
わたしの過去は、今日父との会話を聞いて、だいたい察したのだろう。
それで、もしかすると……吾妻くんは、怒ってくれているのかもしれない。
こんなふうに無感情のようで余裕が欠けた彼を見るのは、はじめてだった。
わたしが少しだけ怯えた目で彼を見つめていたのがわかってしまったのか、彼はすぐに困ったように微笑んでから口を開いた。
「だからさ、真正面から戦うしかねーーんだよなあ」
「……真正面?」
「あーうん、こっちのハナシね」
吾妻くんの手が降りてきて、わたしの頬をゆっくりと撫でる。
……愛されてるって、勘違いしそうな手つき。
吾妻くんが狡いのはいつものことだけれど、いま優しくされたらもう戻れない気がする。
彼がいないと、寂しくて泣いてしまうかもしれない。