噛んで、DESIRE
「ゆっくりでいいよ」
ぽんっと頭に大きな手を乗せて、彼はそんな言葉を掛けてくれる。
……優しすぎるよ、吾妻くん。
すでに泣きそうになるのを堪えて、なんとか平気なふりをして話し始める。
「わたし、妹が、いるんです。純恋という名前で、いま中学3年生の妹です」
「うん、杏莉ちゃんってお姉ちゃんっぽいわ」
……またテキトーなこと言う。
本当かなあ……と疑いつつも、ちょっぴり緊張がほぐれたのは彼のおかげだ。
「わたしと純恋は、華道を物心つく前から習っていて、父にずっと……純恋と比べられて評価されていました。でも……作品を見せると、純恋だけが褒められるんです。実際、純恋には本当に才能がありましたから」