噛んで、DESIRE
生まれが家元だから、華道は当たり前のように習っていたけれど、わたしは華道が大好きだった。
なによりもお花を生ける一瞬一瞬が幸せな時間で、たとえ比べられても酷評されても、やめたいとは思わなかった。
……でも。
「……すごく、羨ましかったんです。純恋は、才能があって、優秀で、父の関心まで得られるんですもん」
父はずっと、純恋しか見ていなかった。
きっと、自分の跡継ぎのことしか考えていない。
才能があると睨んだ純恋をさらに優秀にするために、必死だったのだろう。
「だから、父に認められたくて仕方なくて……何度も何度もお花を生けました。いつかは純恋のように、凄いと褒めてもらえるんじゃないかって。……でも、ある日言われちゃいました。……才能がない人間に構ってやれる時間はない、と」
───『おまえには才能がない。そんな人間の作品を評価するほどこちらは暇じゃないんだよ』
自分の父が発した言葉だと思えなかった。
それじゃあまるで、わたしは邪魔者みたいな扱いだったから。