噛んで、DESIRE
そのときの胸の苦しみを思い出して、ぽろっと涙が溢れた。
慌てて涙を拭こうとすると、吾妻くんが柔く腕を掴んで、わたしを見つめながら首を横に振る。
そっと涙を指で拭ってくれる吾妻くんは、わたしの痛みを共有してくれているのではないかと思うほど、悲しい表情を浮かべていた。
「……それで、その日から、家に居場所がなくなったんです。母は父の言いなりだし、純恋は幼くて何もわかっていなかったので……仕方なかったのかもしれません。父はわたしから華道を取り上げて、お花に触れることも出来なくなりました」
絶望に近かった。
生活の一部、自分の一部になっていたものを取り上げられるのは、自分がからっぽになったのと同じだった。