噛んで、DESIRE
才能がないと、好きなことを続けることすら出来ないのだと、現実の厳しさを叩きつけられた気がした。
吾妻くんは静かに、寄り添って聞いてくれている。
時折、心配そうにわたしを見つめる瞳は、気のせいか慈愛の感情が含まれているように見えた。
「純恋と比べられるのがどんどん辛くなって……エスカレーター式だった私立校から、逃げるように、うちの公立高校に進学したんです。父の関心がわたしに向いていなかったから……びっくりするほど何も言われませんでした。……身勝手だけど、本当に見捨てられた気がしたんです」
学校を変えて進学したいと言ったとき。
『好きにしろ。ただし、四宮の名を、家元の名を汚すような真似は絶対にするな』
釘を刺すように、そんな言葉しか掛けられなかった。
わたしのことよりも、父は家のことが重要なのだ。
家元の長女なのに才能がないわたしなど、興味の範疇外だったのだ。