噛んで、DESIRE



「それと同時に、家を出ることを決意しました。……もう息が詰まる実家から、自由になろうと思ったんです」


吾妻くんは、こくりとうなずいた。

わたしたちはきっと、似た者同士だ。

吾妻くんは親の束縛から、わたしは親の無関心から逃げたくて、家を出た。


ひとりで暮らし始めると、恐ろしいほど平穏で、静かだった。

平和な日々を送っているはずなのに、ときどき真夜中の海に溺れているような気分に陥ることもあった。


でもそんな孤独は自分ひとりではどうしようもなくて、身勝手にも寂しかったときに、野良猫みたいな吾妻くんが現れたのだ。


「……わたしも、吾妻くんがあの日、声を掛けてくれて助かったんですよ」



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