噛んで、DESIRE
彼の背中にそっと、腕を回した。
少しでも温もりを共有したいがゆえの行動だったけれど、吾妻くんはすぐに抱きしめ返してくれる。
ぎゅっと苦しいくらいの抱擁は、ひどく安心感をおぼえた。
「……杏莉ちゃんは才能云々より、もっともっと素晴らしいものが備わってんだよな」
ずっと黙って耳を傾けてくれていた吾妻くんは、そう言って、ふっと微笑んだ。
彼はわたしを甘やかしすぎだと思う。
でもこんなふうに手放しに甘やかしてくれる吾妻くんは、わたしにとって特別な存在だった。
支え合っているのは、寄り掛かっているのは、きっとお互い様だ。
孤独はひとりで抗えないけれど、ふたりなら満たされるから。