噛んで、DESIRE



「出来ることなら、杏莉ちゃんを丸ごと食いてえなあ」


……ちょっと、変わったことを考える人だけれど。

だけどそんなところも愛おしくなってしまっているのだから、重症にもほどがある。



「でもそんなことしねえよ? 食べちまったら、杏莉ちゃんが泣いてても涙拭いてやれないし」

「……う、ん?」


「ふは、冗談。まあつまり要約すると、杏莉ちゃんがすげえ大事だから誰にもあげらんないってコト」

「わたしが……大事?」


吾妻くんが、わたしを必要としてくれている?

大事って、そういうこと……?


わたしはわからない。

ちゃんとした愛を知らないと、こういうときに理解に苦しんでしまう。


でも、彼は問題ないというふうに軽く笑うのだから、そうなのかとわたしもほっとすることができる。




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