噛んで、DESIRE
「何にもしない、って言ってました……」
目を逸らしてそう呟けば、吾妻くんは平然とうなずいた。
「言ったね」
「……じゃあ、なんでこんなに近いんですか」
「んーなんとなく?」
「な、なんとなく……」
もう、わけがわからない。
距離の詰め方がおかしい。
掴まれた腕を引こうとしても、びくともしない。
「ほら、ぜんぜん抵抗できてない」
「それは、吾妻くんの力が、強いから」
「男なんて、皆んなこんなもんだよ」
わかってねえなあ、杏莉ちゃん。
そう笑った吾妻くんの瞳の奥は、見えなかった。
彼がキケンだと言われる理由が、わかってしまう。
何より自由人で、どうでもいいクラスメイトのわたしを、こんなふうにからかうのだから。