噛んで、DESIRE



澪子はニコッと笑いかけてくれたけれど、そんな彼女の優しさには、ぜんぜん気付けていなかった。


吾妻くんとの関係は、言わないほうが混乱を招かないかなと思っていたから黙っていたけれど。

……それをきちんと汲み取って、澪子は黙って見守ってくれていたんだと今頃知る。


わたしはいつまでも自分のことしか考えていないのに、澪子はこんなにも温かい手を伸ばしてくれる。


そんな彼女に、今日こそはきちんと言おうと決意する。

吾妻くんとの出逢いや、いっしょに住んでいたことを。



「……実はね、2、3ヶ月前のある日、吾妻くんがわたしの家の前に座り込んでいたの」



突然話し出したわたしに、びっくりすることもなく、澪子は真剣に聞いてくれる。

さすがに、致し方なく同居生活が始まってしまったことを言ったときには顔が青ざめて拳は震えていたけれど、それでも静かにうなずいてくれる。



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