噛んで、DESIRE
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いつもマンションの階段を上がって家に帰ろうとするたびに、扉の前に吾妻くんが座り込んでいるんじゃないかと期待してしまう自分がいる。
……今日も、いない。
肩を落として勝手に寂しくなりながら、廊下を歩く。
するとタイミング良く、わたしの家の隣の扉がガチャッと開いて、中からダンディーな男の人が出てきた。
「あ……っ、仁科さん」
久しぶりに見た仁科さんは、大きなトランクを抱えてどこかに行こうとしているところだった。
吾妻くんが仁科さんは海外出張が多いと言っていたから、これから出張なのかもしれないと考察する。
軽く会釈すると、仁科さんはニコッと目を細めて同じように挨拶してくれた。
「杏莉ちゃんか。いまは学校の帰りかい?」
「はい……、そうです。少し居残りしていたら遅くなってしまって」