噛んで、DESIRE


「おまえを今日ここに呼んだのは大事な話があるからだと伝えたが。だらだらしても仕方がない。要件は単刀直入に言おう」

「……はい」


実の娘を呼び出し、話をするのに“ 要件 ”だなんて言葉を使う父親は、この人だけではないだろうか。

つくづく家族らしくないと思いつつ、無礼のないよう小さくうなずく。


何を言われても、動揺しないでいると決めていた。

だけど、そんな決意は……あっけなく崩される。



「実は、おまえに縁談の話が来ている」



「……え?」



縁談?

わたしに、……結婚の話?


意味がわからない。

だって、わたしは四宮から外された人間だ。


家元の名を残すための縁談なら、純恋に来るはず。

それなのに、いっさいの才能がないわたしになぜ縁談の話題がのぼるのかが理解出来ない。


動揺を隠せずにいると、結った髪がひと房はらりと落ちた。



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