噛んで、DESIRE
きっと縁談の話を持ちかけてきたのは、四宮家の重要な後見人なのだろう。
いまの世の中、家元といえども、経済面も含めて支援がないと芸術を通して生きていくのは難しい。
そんな大事な後見人の家が……相手方。
わたしには……あまりにも荷が重い。
それに、わたしは吾妻くんをずっと待つって決めたのだ。
彼がいない間に結婚の話など、受けられるはずがない。
吾妻くんの意地悪な言葉や、目を細める仕草が恋しくて仕方ない。
これ以上父や家に囚われるのは……御免だ。
「結婚は……しません」
ドクドクと心臓が波打つ中、きっぱりと言い切った。
どうしても、嫌だったから。
華道や跡継ぎや実家は手放しても、自分自身だけは手放したくなかったから。