噛んで、DESIRE
不思議と声は震えなかった。
わたしの言葉に、父の隣で静かに座っている母が、困惑した表情を浮かべたのがわかった。
いつしかわたしに対して他人のように振る舞うようになった母は、ずっと変わらず、父に囚われている。
愛があったのかはわからないけれど、両親は政略結婚という形で出逢っているのだ。
母が楽しそうに父と話しているところは、ほとんど見たことがなかった。
だからわたしは、政略結婚なんて嫌だった。
愛のない結婚はしたくない。
それに、もう父に囚われたままの何も出来ない娘というレッテルから……解放されたかった。
たとえ四宮家がどうなろうとも、わたしが知ったことではないのだ。
「……何を言っている?」
父の眉が、ぴくりと動いた。
怒りを抑えているのは明らかで、少しだけ怯む。