噛んで、DESIRE
「だが、やはり……うちの長女は吾妻家にふさわしくないと思っているのだが」
わたしが隣にいるというのに平然とそんなことを言い出す父は、思いやりの気持ちなど持ち合わせていない。
こんなのは慣れているけれど、吾妻くんの前で卑下されるのは少し悲しかった。
俯いて、ただ時間が過ぎるのを待つ。
数秒黙っていた吾妻くんは、極上の麗しい笑みを浮かべて、不思議そうに言った。
「ふさわしくない? 僕は杏莉さんを、ふさわしいかどうかで選んだのではないのですが」
「だが、家元の長女だというのに華道もままならないような娘だ。いまからでも次女の純恋と結婚を────」
「ありえません」
父の言葉に被せて、吾妻くんは低い声を放った。
おそるおそる顔を上げると、彼の目の奥は笑っていなかった。