噛んで、DESIRE
「僕は杏莉さんに縁談を、と、何度も申し上げたはずですが」
「……ああ、そうだった。だが、……どうしてそこまで杏莉に拘るんだ?」
父は心底わからないようだった。
わたしの価値などないと決めつけているのだから、そんな父のもとで育ったわたしが、自分に自信がまったくなくなってしまったのは仕方ないのだと客観視する。
……こんな家、早く出れば良かったんだ。
自分のことを大切にしてくれない場所など、早く捨てたら良かった。
わたしがずっと囚われてきたものは、こんなにもちっぽけだったんだ。
「理由なんて簡単ですよ。僕には杏莉さんがいちばん美しく、心優しい女性に見えますが」
「……会ったことなどないのに、何がわかる?」
「そうですね。でも、僕の目に狂いはないと自信を持って言えます。父親であるあなたには、杏莉さんの魅力がわからないのですか?」