噛んで、DESIRE
「お姉ちゃん、結婚させられるの……? もう会えないの……?」
「まだ、正式に決まったわけじゃないよ」
「でも……っ、嫌なら断らないと、お姉ちゃんの人生が台無しだよ!」
必死に訴えかけてくれる純恋は、純真無垢だった。
家が絡んだ縁談の話を断ることがそう簡単でないことを、まだわかっていないのだろう。
でも、純恋がこんなふうに純粋な子に育ったからには、わたしが父に冷遇されていた意味があったのかもしれない。
そう思えたわたしは……少しは成長したのだと自信を持って言える。
わたしの腕を掴む純恋の手を握り、目を合わせて口を開いた。
「お父様には内緒だけど、この縁談は、相手の方がわたしを救うために持ちかけてきてくれたものなの」
「お姉ちゃんを……救うため?」
「そう。だから、わたしはもうこの家に帰ることはないと思う。わたしの居場所を、作ってくれたひとがいたから」
「……でも、でも、寂しいよ。お姉ちゃん」