噛んで、DESIRE
目の前に立った彼は、そっとわたしの髪に触れる。
その手つきは2ヶ月前の夜の優しさと同じで、涙で視界が滲む。
「黒髪の俺はどうですか、杏莉ちゃん」
冗談めかして首を傾げる吾妻くんだけれど、恐ろしいくらい似合っているし、余計に色気が倍増していて直視出来ない。
そんなことを言えるほど素直じゃないわたしは、そっぽを向いて答えた。
「……似合ってます。すごく」
「そー? それなら良かった」
「でも……、どうして、突然黒髪にしたんですか」
わたしの頬を両手で挟んで遊んでくる吾妻くんに、構わず尋ねる。
やっぱり美しいなあ……と眺めていると、彼はニコッと微笑んで言った。
「そりゃあ、決まってんじゃん。真面目な男を装って、杏莉ちゃんをもらうためってコト」
「それを自分で言っちゃうところが……真面目じゃないのでは」
「はは。だから装ってんの。杏莉ちゃんは俺がどんなだろうが受け入れてくれるでしょ」